An Inconvenient Truth

昨日の昼過ぎ、学科のメーリングリストで、場所・時間限定の映画タダ券が大量にあるから興味ある人はぜひ、とのメールが回ってきた。車で20~30分の White Marsh というモールにある映画館で19時半開演の An Inconvenient Truth(邦題:不都合な真実)という、クリントン政権で副大統領を務めた(&2000年大統領選でブッシュに曰く付きで負けた)アル・ゴアが地球温暖化について訴えるドキュメンタリー映画。個人的にはとっても興味があるので友人を誘って行ってきた。


アメリカ全体で考えると、『環境問題後進国』というのはちょっと生活してみればすぐに感じる(でも特定地域は他国顔負けのエコ推進地域もあるそうだ)。この前ラボ友人宅で BBQ があったとき、自分の指導教官が「ウチのだんなは地球温暖化を信じてない」と言っていたのを聞いてびっくりした。その旦那さんはウチの学科で流体力学専門のアシスタント・プロフェッサーで、彼の考えるモデルでは地球の温暖化が証明できないから、というのが理由だそうだけど、日本の理系大学教授で地球温暖化に異を唱える人なんてほとんどいなさそう(去年の卒業式、アル・ゴアの話に関心がなかったのもそのためかも?)。そして他のアメリカ人学生もほとんど興味がなさそうだった。でも、昨年 PhD を取って卒業したアメリカ人のラボ仲間がいまスイスの大学でポスドクをしているけど、彼はスイスで1年弱生活して地球温暖化を信じるようになった、と夫婦揃って言っていた。もちろんこれが典型的なアメリカ人の反応とは言い切れないけど、でも日本がクールビズと言ってネクタイ外してクーラーの設定温度で盛り上がってる一方で、アメリカは大抵どこの建物も(人がいなくても)風邪引くくらい冷房掛け過ぎの現状を考えると、やっぱり『環境問題後進国』と考えざるを得ない。

さて肝心の映画の内容だけど、基本的にゴアが今まで地球温暖化に関して1,000回にも及ぶ講演を行ってきたものをメインに映像化したもの、という構成。近年の地球全体の平均気温の上昇、年間最高気温がこの十数年にほとんど記録されていること、キリマンジャロなどの氷河がどんどん溶けていたり、二酸化炭素の割合がどう変わっているかといった科学的なデータをもとに、効果的な映像を駆使して聴衆を引き込むトークで1時間半語り進められる。他にも溺れている北極グマが近年目撃されるようになったことや、近年の査読された928編の科学論文で温暖化の原因が人類であることを否定しているのはゼロなのに対し、(アメリカだけか世界でかはわからないけど)一般大衆誌では53%も地球温暖化は未解明、としている点なども語られている。ところどころ、データとしては正しいんだろうけど、その示し方・他との関連付け方として本当に正しいかどうか少し疑問に思うところもあったけど、地球温暖化は徐々に進行していると警鐘を鳴らすためにはくどくてもいいのかもしれない(そんなわけで映画は1時間半強だったけど、ちょっと途中で『胃もたれ』気味になって2時間超に感じた)。

また、ゴアの人生を紹介するエピソードもいくつか組み込まれているので、温暖化のことを全面に押し出しつつも、どこか政治的な匂いも感じてしまう。そのため、華氏911では本人の意思に関係なく主演:ジョージ・ブッシュとなったけど、この『不都合な真実』はむしろ自ら主演:アル・ゴアを売りにしているように見える。実際、この映画の話題の一つに、ゴアが2008年の大統領選に立候補するか、というのがあるようだし。ちなみにブッシュ政権は温暖化を否定しているのではなく、温暖化の原因が人類なのか自然現象なのかわかっていないから放置、というスタンスらしい。この映画を見るか?と訊かれたブッシュ大統領、しばらく苦笑いした後に一言、"Doubt it."(多分見ないよ)と答えていた。

このようなアメリカの温暖化に対する現状を考えると、ホワイトバンドの趣旨が思い出される。ホワイトバンドは、貧困をなくすためには個人レベルの募金では焼け石に水なので国家レベルで動かないと解決できない、そのために一人一人がホワイトバンドを身に付けてアピールしよう、という感じだった。これをアメリカでの地球温暖化問題に置き換えると、個人個人で温暖化に対する意識を高め、国家レベルで(つまり環境問題をしっかり考える大統領を選出するよう)進めよう、という考え方ができる。また結局のところ、こういうのを見る人はもともと環境問題に興味がある人であって、そもそも温暖化について考えてない人が観る可能性はかなり低い。そんなわけで、温暖化のみに焦点を置くより、主演:アル・ゴアみたいな映画でもありかな、と思った。


【アメリカ在住の方へお知らせ】
この映画を見た者の使命(?)として、この映画を広める責務があるようです。場所も時間も非常に限られて上映されるけど、ぜひ都合がよければ映画館に足を運んでみて下さい。詳しい日程等はこちらでどうぞ。ボルチモアでは、6/9(金)に Charles Theater で上映。日本で公開されるかはいまのところ不明。。


● 関連ブログ
- 深夜のNews:An Inconvenient Truth
- パンダとそらまめ:An Inconvenient Truth with アル・ゴア
- 温暖化いろいろ:アル・ゴアのフライング?キャンペーン
- オフィシャルサイトのブログ(英語)

● 関連ビデオクリップ(英語)
- Break the Addiction: An Inconvenient Truth (MTV.com)
(右側の "Watch An Inconvenient Truth PSA's" で30分のビデオが見られる。)
- 5/31 CBS Early Show
- CEI: We Call It Life
(温暖化に真っ向から反対していて、ゴアこそ二酸化炭素をたくさん排出していると皮肉っている。)

● もう少し突っ込んだ解説など
- ウィキペディア:地球温暖化
- 温暖化問題:基礎知識FAQ ←科学的観点から
- 田中宇の国際ニュース解説:地球温暖化問題の歪曲 ←政治的観点から

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こんにちは。TBありがとうございました。
私まだアメリカに1年も住んでいないのですが、事務処理とか何でもとんでもなくいい加減なくせに信じられないエリートが(いる所には)ごろごろいたり、メチャクチャ冷房を効かせたり、NYだと所かまわずゴミを捨てたり本物のアホかと思う反面、逆にこりゃウカウカしてられないねぇ~という企業や政策担当者がいたり、本当に捉えにくいですね(^_^;) 地域差も大きいみたいですし。
 
>こういうのを見る人はもともと環境問題に興味がある人であって、そもそも温暖化について考えてない人が観る可能性はかなり低い。
全く同感で、何とかしたいとあの手この手で工夫しているんでしょうが、その分反発も大きくなりますね。とはいえ、特に昨年あたりから話題にもならなかった状況とは変わってきたのかなと思い出しました。

そらまめRRZさん、コメントありがとうございます。自分がアメリカに来て思ったことの一つに、(統計の分布図を想像して下さい)日本は平均より高いところにごそっと一塊にまとまっている感じで、アメリカは分布がとーっても広い、というのがあります。結構何にでもあてはまるように感じます。そういう意味で、この地球温暖化の件も熱心な人はとことん熱く語るだろうし、そうじゃない人は全く無関心という差がアメリカではかなり激しいと思います。まぁこんなに広い国だから仕方ないのでしょうが。

ウチのラボ仲間はほとんどふーんって感じですが、もっと多くの人に考えて欲しいし、政治的なネタで終わることなくアメリカ全体の意識が高まっていくといいですよね。

TBありがとうございました。engineering的に言えば、環境問題は惑星的規模での自然系ー文明系のsystems engineeringとでも言えましょうか。実際のところ、自然現象はスケールが大きすぎて、現状ではほとんどモデル化不可なので扱うのがたいへんでしょうけど、これからの時代、結構注目を浴びる分野になるかもしれません。

あとゴアを見て思うのは、アメリカ人の自由な生き方です。副大統領を務めた人が、環境問題の伝道師みたいになって、地球温暖化の危機について啓蒙活動をする、というのは日本では考えられないだろうなと思います。

先日はとても印象深い映画に誘っていただいてありがとうございました。
アメリカで政策に一石を投じるには、まず”注目される”ことが第一関門(社会全体の傾向としてトークに長けている人が多いこの国では、この壁が日本以上に厚い)と感じます。流体力学専門の指導教官のダンナ様には、温暖化は止められるというモデルを開発してもらうか、是非温暖化に異を唱える論文を発表して、一大センセーションを巻き起こしてほしいものです。(笑) しかし、リーダーを変えれば環境問題に対する意識も変わるというこの映画のメッセージ(日頃のクラスメートとの会話にも共通する)には、やっぱり未だ半信半疑です。
全館冷蔵庫のようなビルでミーティングしたせいで、風邪で3日間寝込んでいました。
これからの時期、アメリカ在住の皆さまはどうぞお気をつけて。。。

> 真魚さん
コメントありがとうございます(&TB 2回送ってごめんなさい)。直接話したわけではないので、その旦那さんがどんなモデルで考えてるか、そもそも真剣に考えて出てきた話なのかもわかりませんが、今度会ったとき話してみようと思います。ちょっと前まで世界最速だったスパコンが NEC の地球シミュレータというもので、以前はなんでそれが世界最速なんだろうと不思議でしたが、仰るとおりモデル化が極めて難解もしくは不可なので、超高速パソコンが必要なんでしょうね。

ゴアの伝道師的な役割に関してはまったく同感です。そういう自由さがアメリカの本当にいいところですよね。

> checkie さん
もし環境問題に積極的に取り組むリーダーになっても、結局この現状は変わらないってことでしょうか?僕は、アメリカ全体を変えるほど大々的な意識改革をするためには、法律で定めたり強制的に変えなければ難しいのでは、と思っています。例えばアメリカ標準単位(インチとか華氏とか)を世界標準単位に変えるためには、法律で変える!としない限り、一生変わらないと思います。あ、でも映画にも出てきたタバコの件を考えると、そうでもないんでしょうかね。でもこの広い広い国では、社会の流れで変わるというより強制的にせざるを得ない状況にしないと、何十年経っても進まないように思えます。

tyamaさん、コメントありがとうございました。
リーダー交代による改革に懐疑的な理由ですが、私は、単純に意識改革が出来た場合でも、エネルギー/資源多消費社会にここまで慣れきってしまった人たちの生活スタイルはそうすぐには変えられないのでは、という点に疑問を抱いています。強制的に改革するために法律・規制を変えるというのも有効な手ですね。この場合、規制を変更するために実施が義務付けられている規制影響分析(Regulatory Impact Analysis,RIA)で、規制することで得られる社会便益が環境破壊等のコスト(社会損失)を上回ると実証される必要があり、これがハードルになる気もします。タバコの弊害のように、個人の被害×人口で社会損失が計算できれば比較的楽なのですが、環境問題の場合、不定期で、しかも地球規模で起こっている天災の被害規模を一国の社会損失として割り出すのはかなり無理があるし、規制するメリットを経済的価値に置き換えて推計するのも技術的に難しいと思います。この手続きは国家環境政策法(National Environment Polisy Act of 1969)でも一応担保されていますが、歴史的に、不特定多数の消費者・個人に対する悪影響を防止するというよりは、特定産業・地域、中小企業等に不利にならないように産業界の中立性を保つ趣旨で実施されてきたようです。こう考えると、規制・法律を変えるには、環境問題に熱心な産業界の芽も育てる必要がありそうです。

一方、私はこの国の政策は、社会の流れ(典型例は、大統領の交代や危機の出現とよく言われます)に、いい意味でも悪い意味でも比較的柔軟に対応していると思っています。なので、社会の流れが変わるような一大イベントを人為的にでも作ることが出来たら、政策を変える第一歩になるのではないかなあと。そういう意味で、学会誌のバトルでもいいので、環境分野で一大センセーションを巻き起こして、無関心層の間でも議論が盛り上がってくれたらなあとか他力本願に考えていたりします。。。

checkie さん、解説ありがとうございます。とっても勉強になります。環境問題対策はアメリカの経済成長を停滞させてしまう、というのも映画の中で解説されていましたっけ?少し記憶があやふやになってきましたが、それに関してどこかで批判的な意見を見掛けたし、何より中国などでいま正に起きてるのがそれですよね。ただ単純試算だけしたら、アメリカ経済にとってのメリットはほとんどない気がするので、やっぱりなんとか国民の意識が変わればいいんですが。

大統領交代を機に、と考えるとあと3年は待つ必要がありますが、この国で草の根レベルで広がるスピードを考慮すると、やっぱりそれが現実解なのではと思えてしまいます。でも、そのときに社会の目が環境問題に向いていないと、それに真剣に取り組む大統領は選ばれないので、やっぱり社会の流れが重要なんでしょうね。なんだかクレジットカード作り(クレジットカードを作るにはクレジットヒストリーが必要、でもクレジットヒストリーがないからクレジットカードは作れない、そのクレジットヒストリーを作るにはクレジットカードを使うのが一番)みたいな感じですね。。

読売新聞6/6(Tues.)付朝刊に「ゴア氏映画ヒット」の記事がありましたので紹介します。

環境問題テーマ 興行成績9位
地球温暖化の恐怖を説く姿を描いたドキュメンタリー「アン ・インコンビーニエント・トルース」が米国とカナダで公開され2~4日の週末「ダ・ビンチコード」などの大作と肩を並べ、興行成績で9位に食い込んだ。映画館内では、ブッシュ政権の環境政策をユーモア交じりに批判するゴア氏に爆笑や拍手が次々にわき起こる盛り上がりで、2004年にブッシュ批判でヒットしたマイケル・ムーア監督の「華氏911」を思わせる現象となっている。
映画の公開は現在9都市77館にとどまっているが、単館当たりの売り上げでは17000ドルを超え、ベスト10で1位の作品を5000ドル上回っており、上映館数も順次拡大の予定だ。
前副大統領は映画の冒頭で、「『次の合衆国大統領』」だったゴアです。」と自虐気味に登場。だが、北極の氷が解け出す映像や海面上昇で危ぶまれる大都市水没の予想図を次々に繰り出す「スライド・ショー」と呼ぶ講演スタイルは、視覚に訴えて説得力十分。
環境政策の大家としての存在感を増したゴア氏が今後、何らかの形で政界復帰を目指すのか、注目を浴びそうだ。
(シカゴで和田和男)

この記事を単純に見るとブッシュ対ゴアという構図での盛り上がりなのか、環境問題といった本質的な問題認識での盛り上がりなのかよく分かりませんが、米国の環境問題対応を日本から見ていると何が要因か分からないからといった捉え方だとしたら、日本の官僚や政治家が使ってきたようにやる気のない態度や政治姿勢としか見えないといった感が否めません。世界には衣食住がままならない国や人口が多く、現在の地球人口約63億人がすぐ100億に迫る勢いなどを踏まえると、もう少し資源・エネルギー・食糧等の無駄遣いを控える(大切に遣う)くらいのことを考える国になって欲しいものだと感じます。一部のリーダーのいう米国の国益と称するだけで言葉の中身がどれだけ理解されたかわからない曖昧で権威的である言葉の響き(「米国の国益」という)の良さへの疑問を抱かず、自分達が優先的に、又今が良ければ・・・的な理解の仕方を想像すると危惧を強く感じますね。これはあくまで日本にいて米国のやり方や他国への圧力のかけ方等を見ていると傲慢さを一部分では強く感じます。
しかし、どこの国民でも自分で自分の理解具合を自分なりに整理できれば、結構色々な面に対して意識も態度も変わるものであり、米国も例外ではないような気がしています。米国における環境問題が少しずつでも社会問題への動きとなることを願いたいものです。そのためには、小さな声でも出し続けることが重要と考えます。
(「世界がもし100人の村だったら」の発想で整理すると色々な問題がシンプルに見えます、又感じます)

>アメリカ全体で考えると、『環境問題後進国』というのはちょっと生活してみればすぐに感じる

そうですか?実はTB記事でバーンズ国務次官が温暖化にも触れているので。こちらの記事から講演の画像にリンクしています。WindowsとRealですが、始めから23~24分くらいのところで、述べています。

核不拡散のために民間核利用を支援し、温暖化も防ぐという政策については、私がワシントンでボドマン・エネルギー長官の講演を聴いた際にも述べられていました。

特に環境問題に関わっていない高官でも温暖化を認めているではないかと「深夜のニュース」の真魚さんと議論になりました。実はそこから、このブログにたどり着きました。TB記事ともども宜しくお願いします。

> 舎 亜歴さん
アメリカが『環境問題後進国』と感じたのは自分の2年間の経験からです。国民全体としての意識はヨーロッパや日本に比べると低いのでは、と言わざるを得ない状況を少なからず見てきましたが、アメリカの他地域に住むと違った印象を持つのかもしれません。また、環境問題に関わっていない高官が温暖化を認めていても、少なくともこの国の大統領は温暖化の原因が人的要因だとは認めていないと思います。

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