前回に引き続き、未来型カガクシャ・ネットの『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』というメールマガジンで配信された記事の転載です。今回はなぜ海外の大学院を選んだか。実際、ロボット工学を専攻しているということもあって、こういう質問はよくされます。自分の場合、昔から留学を志してたとか、日本の枠じゃ収まりきらないとか、そういう壮大な目標があったわけではなく、簡単に言えば敗者復活戦でした。こんな失敗談を公にするのはかなり恥ずかしいけど、何かの参考になれば幸いです。
----------------
一浪の末入学した憧れの東工大の入学式祝辞で、どなたかが「6ヶ年計画」と仰っていたのを今でもよく覚えています。つまり、理工系出身の学生として社会に出て活躍するためには、最低でも学部4年+修士2年の勉強が必要であると。入学時、ロボット工学を勉強したいという目標は決めていましたが、具体的な進路は特に考えておらず、学部→修士→就職という理系学生の典型的なキャリアパスをぼんやりと描いていました。
月日はあっという間に流れ、学部4年の夏。大学全体の修士課程進学率が約90%という、まさに6年間の学部・修士一貫システムのような環境、仲の良い友人はみな大学院進学希望だったこともあり、何の疑問も持たずにそのまま修士に進学しようと考えていました。そして大学院入試を終え、合格発表の日、私は江ノ島で夏休みを満喫していました。前日夜遅くまで飲んでいたため合格発表には間に合いそうもありません。友人に合格確認を頼んだその十数分後、「・・・番号がないんだけど」という折り返しの電話。確かに試験の出来は芳しくなかったものの、まさか自分が落ちるとは考えたこともなく、ぼんやりと思い描いていた「6ヶ年計画」が一気に崩壊。まさに自分の将来が真っ暗になった瞬間でした。
その後の身の振り方としては、(1)同じ研究室に研究生として残って翌年大学院を再受験する、(2)その時点から就職活動をする、(3)まだ募集を受け付けていた他大学院を受験する、という選択肢がありました。既に大学入試で一度失敗していた私にとって、これは非常に大きな転機でした。現役時に失敗した悔しさを忘れ、大学4年間だらだらと過ごした自分への憤り、そして同じ過ちを繰り返した不甲斐なさで一杯でした。そこで、自らの意識を根本的に変える必要性を感じ、(1)のように同じ環境に身を置くより、(2)や(3)のように環境を大きく変えるべきだと考えました。
そんなある日、ふと立ち寄った本屋で、大学院留学という本が目に留まりました。そうだ、何も日本国内だけで考える必要はないんだ。今まで考えたこともなかった選択肢に遭遇した瞬間でした。もちろん同じ失敗を繰り返した自分が、些細な気持ちから「海外逃亡」を挙げても何の説得力もありません。しかし、色々な選択肢を吟味しつつ他国の大学院を調べるうちに、海外に行って一から自分を鍛え直したい、という思いが強くなってきました。そして不合格の日から1ヵ月後の9月下旬、両親や指導教官に自分の気持ちを伝え、大学院留学を目指すことを決意しました。
当初はどこの国の大学院を目指すかも決めていませんでしたが、基礎力がしっかり身についていない私にとって、アメリカの厳しくも評判の良い高等教育は非常に魅力でした。まさに鍛え直すには理想的な環境ですし、実際に体験したいま、この選択は正解だったと思います。また研究分野のレベル、文化的な多様性、将来的な英語の重要性、そして多くの方が挙げていると思いますが、金銭的なサポートが充実している点を考慮し、最終的にアメリカの大学院を目指そうという結論に辿り着きました。欧米の先進諸国では、(一部の専攻を除いて)大学院生でも十分自活できるというのは一般的です。博士課程でも多くの学生が授業料を払っている日本は、むしろ「発展途上国」であるということを、残念ながら多くの方は知らないと思います。
私が日本の学生に一番伝えたいこと、それは選択肢は一つではない、ということです。アメリカに来て驚いたことの一つに、予想以上に中国人・インド人・韓国人が多かったことが挙げられます。確かに日本がトップの研究分野も多いですし、彼らの国と教育事情は異なるでしょう。しかし、院試前の私と同様、日本の多くの大学生には、数ある選択肢が見えていないのではないでしょうか?仮に大学院も学部と同じ学校にしようと決めたとき、国内の他大学院や海外の大学院も十分に検討してみましたか?なんとなく知らず知らずのうちに選択を狭めていませんか?目標を達成するためには、小学校の算数テストのように一意の解が存在するのではなく、研究のように様々なアプローチがあります。同じキャンパスに6年間通って企業に就職、もしくは学部から博士まで同じ研究室で過ごす以外にも多くの選択肢が存在するのです。
私の場合、大学院入試に落ちたことでようやくその事実に気付きました。この失敗のおかげで非常に大きな人生の転換期を経たわけですが、優秀な方にはこんな経験をせずとも、ぜひ広い視野を持って様々な可能性について考え、多くのことにチャレンジして欲しいと思います。誰にでもアメリカの教育システムが合うとは思いませんし、海外留学はあくまで選択肢の一つです。しかし、密度の濃い授業やそれに望む積極的な学生の姿勢、授業外の質問であっても親身になって答える教授、ライティング・プレゼンテーション能力に長けた学生たち、枠を越えた研究者との交流など、知の探求を楽しむ上で参考になることは多いと思います。私の体験が、将来の進路を考える一助になれば幸いです。
