ダ・ビンチ手術の見学

今日、指導教官の共同研究者の医師の計らいで、ダ・ビンチ(詳しくは先日の研究紹介を参照)を使った手術に立ち会う機会に恵まれた。すぐひょいっと行けるのは、ホプキンスの病院には約1.5億円もするダ・ビンチが2台もあるから。こういう環境は本当に恵まれていて贅沢だと思う。


(c) Intuitive Surgical, Inc.


cited from Wikipedia

ダ・ビンチを使った手術のビデオは何度も見たことがある(運が良ければ、ここでオンライン生中継が見られる)けど、実際に手術室の中に入って直に見たのはもちろん初めて。手術衣に着替え、まるで研修医みたいな気分。ノート持ち込み許可をもらえたので、色々とメモしてきた。

事前に持ってたのは白い巨塔のイメージくらいだったので、術中の雰囲気にはちょっとびっくりした。まず世間話は当たり前、噂で聞いた通り音楽は掛けるし、手術室への出入りも結構頻繁。定時だからか、途中で帰っちゃった人もいた。もちろんこれが一般的かはわからないけど。

専門じゃないし、当然英語(医学用語は難しい。。)なので、どこまで理解できてるかわからないけど、今日の症例は前立腺癌。アジアでは割合は低いけど、ヨーロッパ、特にアメリカではかなり一般的な癌だそうだ。前立腺なので男性のみで、50代以降に多いらしく、今日はその典型的な患者だった。

手法は、前立腺(prostate)を全摘出し、膀胱(bladder)と尿道(urethra)を縫合。結構、タフな手術だそうだ。まずはじめに、肛門からの触診、腹部の剃毛をし、腹腔鏡手術なので穴を開ける部分をマーキングする。そして(腹腔内はスペースがないため)ガスを送り込んでお腹を膨らませ、先ほどマーキングした部分に穴を開け、ロボットアーム(ロボットアームと言っても、内視鏡に使われる器具と同じ)を挿入する。ここまでの流れは、手術室にいないと見られないので、なかなか貴重なシーンを見られてよかった。ちなみに、患者は全身裸で、局部と腹部はずっと晒されっぱなし。本人は全身麻酔でわからないだろうけど、ああいう扱い・光景を見ると、ちょっと自分だったら嫌かもってくらい、かなりおおっぴらだった。

手術が始まると、患者の周りをスレーブ・ロボットが囲い込んでしまうし、内視鏡なので外側からは何もわからないため、モニタに映し出される映像を見ていた。基本的には執刀医が同じ部屋内の少し離れたマスタ・ロボットを操り、患者のそばに助手が一人いる。あとは、器具を準備する人、患者の状態をチェックする人などなど、全部で7〜8人くらい。助手は実際に患者に触れるので、当然手袋もするし、術衣の上からさらにもう1枚滅菌された手術着を身につけていたけど、執刀医はロボットを操るので、結構ラフな服装だった。普通に素手なので、手術中もパソコンに向かって報告書を書いたり。途中何度か研修医と交代し、指導もしていた。さらに最後には、自分たちにも動かさせてくれた。プロトタイプは実際に研究で使ってるし、市販のも以前に実験で扱ったことはあるけど、まさか手術中に操らせてくれるとは思わなかった(厳密に言うと、手術完了後、でもロボットアームはまだ患者の体内にあった)。

手術後、なんと摘出された前立腺を触らせてもらえた。体内から出て来たばかりなので、当然生温かい。自分の今の研究テーマの1つが、こういう臓器の機械的性質を遠隔操作中にオンラインで推定すること。簡単に言えば、どれくらい固いかのばね定数等を推測する。前立腺の中に癌塊があって、それは他の部分より固い(その医師によれば、普通の部分は親指付け根の腹の辺り、癌塊は関節くらいの固さ)。いまのダ・ビンチでは、この固さの違いが操作者にほとんど伝わらないので、それを推定できればより医師にとって手術しやすくなる。実物を触る機会なんてまずないから、とっても貴重な経験だった。

手術時間は5時間と長くてかなり疲れたけど、本当に見学できて良かった。実際に体験したことで、自分の研究へのモチベーションにもなったし。ドイツに行くまでのあと1ヶ月ちょっと、頑張ってプロジェクトを進めなければ。。。

● 参考
- 名大医学部:内視鏡手術について
- 前立腺癌について
- Wikipedia: Prostate Cancer

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4 Comments

ちょっと気になるので差し支えなければ教えてください。

患者さんは何歳だったのですか?それから、前立腺の体積とPSA level(prostate specific antigen level)はいくらでしたか?

私の予想では患者さんは比較的若くて、前立腺は癌細胞で結構肥大していて、PSA levelも高いと思います。全摘手術は体の負荷が大きいので、高齢で、癌がそれほど深刻でない場合は低侵襲なbrachytherapyやcryosurgeryをすると思うからです。違ってたらごめんなさい。

エンジニアとして忘れないでほしい問いかけは、「コストとベネフィットを考えたときに、なぜダヴィンチでなければいけないのか?」ということですね。その答えがない、つまりダヴィンチである必要がないというのが現状だと思います。

その点、HeartLander
http://www.cs.cmu.edu/~heartlander/index.html
(母校だから例をあげるわけではないのですよ。笑)
のような発想は手術法自体を革新するので、開発はより困難ですが将来的には期待が大きいと思います。

> ダイゴさん
まさに good questions です。といっても、僕が答えられるのはあんまりないんですが(笑)

患者さんは60歳だそうです。前立腺の正確な体積はわかりませんが、大きさは人差し指と親指で丸を作ったくらいの大きさ、中心部で厚みが3cm程度でした。担当医に問い合わせたところ、His PSA was in the 5 range. とのことです。その先生の見解で、一般的なものではないかもしれませんが、患者が65歳未満で健康な場合、長期的に見たら他の処置よりも手術した方が良いとのことです。

今回の場合だと、ダ・ビンチを使う必要性を感じたのはエンジニアではなく医師の方だと思いますが、確かにデメリットとして高額な医療費が挙げられます。一方、成功率を高めるため、ロボットの正確性とより詳しい視覚情報(普通の腹腔鏡だと2Dモニタですが、ダ・ビンチは3Dモニタで立体的に見えます)というメリットが上回ったため、今回はダ・ビンチでの手術を選択したそうです。でも、ダイゴさんの仰ることはよくわかります。

ちなみにこれまた高額になる気がしますが、ダ・ビンチの対抗馬が現れたかもしれません。カナダ発で MRI 対応です。まだこれから臨床を経ると思うので、どうなるかわかりませんが。
http://wcm2.ucalgary.ca/news/april2007/neuroarm

日本からも頑張ってほしいですね。

確かに60歳だとまだ先があるので、リスクを残すよりは摘出でしょうね。70歳以上だと10年持てば。。。という考えで摘出以外の方法をとるのだと思います。厚みが3cmというのは普通の範囲でしょう。調べていただいてありがとうございます。

I can look for the reference to a site on which there are many articles on this question.

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