ミュンヘン研究留学(2)〜教育システム〜

国が違えば当然教育システムは異なることが多い。日本とアメリカの大学・大学院の違いは、このウェブサイトでも何度か書いてるけど、ドイツの高等教育は日本ともアメリカとも異なっていてとても興味深かった。理系で留学と言えばアメリカがほとんどだけど、これから留学を考えている方にはドイツという選択肢も紹介できればと思う。

【注】聞いた感じでは、アメリカほど多様性があるわけではなさそうだけど、あくまで自分が経験した範囲内ということで汲み取って下さい。これが一般的かどうかというのはわかりません。また、間違っている点、異なってる点等あれば、ぜひコメントでお知らせ下さい。

教育システムと言ってもここでは高等教育、大学・大学院の教育システムに関して。大学院のみに特化したいところだけど、ドイツの教育システムを考えるとそうはいかない。というのも、ドイツには伝統的なディプロムと呼ばれる、いわゆる学部・修士一貫の5〜6年間のプログラムがある。大学へ入るためにはアビトゥアという試験をパスすれば、(大抵の場合)誰でもどこへでも入学できるそうだ。大学へ入学すると、自然科学・工学系はディプロムコースに在籍する。博士号を取得したい場合、ディプロムコースを卒業後に博士課程へ在籍する必要がある。アメリカ同様、日本特有の論文博士というオプションはない。これが今までの流れだった。

ところが1999年、ヨーロッパ間でまちまちだった教育システムを統一する等の理由で、ボローニャ宣言がヨーロッパ各国で採択された。これに伴い、ドイツでも2010年末までには学士/修士課程へ完全に切り替えるそうだ。面白いのは、国際的な流れのために取り入れたボローニャ宣言なのに、アメリカでドイツのディプロムを真似て、学部・修士一貫課程を設置している大学が増えてきたこと。

ところで、アメリカの学士号取得に卒業論文が必須なところは極めて稀だし、修士号でも必須と言うところはそれほど多くはない。一方、ドイツのディプロムコース(もしくは修士課程)は卒業論文が必須だと思う。日本の場合、卒論・修論と言ったら、大学の研究室に所属して書くのが一般的だけど、ドイツの場合、大学の研究室以外に、企業でインターンをして論文を書き上げるという選択肢もあるようだ。特に工学系では、企業でのインターンがかなり普及しているように感じられた。そういえば大学院1年目のとき、ミュンヘン工科大学からディプロムの学生が来ていて、卒業論文を書き上げるためにウチの研究室に半年間在籍していた。

ドイツではこれまで授業料は無料だった。これはヨーロッパだと結構一般的なようで、大学以降は授業料を無料にしている国が多いと思う。ただ最近は、学生数の増加に伴う財政難や、長く大学に居座る学生を早く社会へ送り出すため、ドイツでは2006年冬から授業料を徴収し始めたそうだ。とは言っても、日本の国公立大学に比べても破格の値段で、州ごとに異なるらしいけど、ミュンヘンがあるバイエルン州では1セメスターにつき500ユーロとのこと(もしくはミュンヘン工科大が500ユーロかもしれない)。

ドイツで一番興味深かったのは、博士課程のシステム。日本でもアメリカでも博士課程は学生という認識が強いと思う。日本とアメリカで違うのは、アメリカの方が『働いている』という意識が強いところだと思う。実際、多くの博士課程の学生は給料をもらっているし、研究すると言う意味で work という動詞をよく使う。これがドイツだとより顕著になる。というか、博士課程に在籍する人はもう学生ではなく、大学の職員として扱われ、教育者・研究者として働いている。これを初めて聞いたのが学食(ドイツ語でメンザ)へ行ったときで、あっちは学生用の食堂、こっちは大学職員の食堂と言って、博士課程の学生はみんな職員用食堂へ向かっていた。

働いているから、当然給料も払われる。一概には言えないけど、アメリカ(少なくとも自分)よりも結構いい額をもらっていると思う。その代わり、それに見合った仕事量も要求される。ドイツの博士課程在籍者の給料は、主に TA(ティーチング・アシスタント)と研究資金付きプロジェクトに参加することで賄われているそうだ。自分のお世話になった研究室だと、みんな毎セメスター TA をやっており、講義の補習や宿題の添削、さらには期末試験問題作成(← アメリカでも TA がするところもあるようです)までやっていた。これとは別に、博士課程在籍者はディプロム・修士課程の学生を指導することもある。彼らが卒論を書き上げるためミニプロジェクトを与え、それを指導する。多い人だと一度に3〜4人も指導していた。そして数ヶ月間学生を指導し終えて送り出すと、また新たな学生がミニプロジェクトを求めてやってくるそうだ。ちなみにディプロム・修士課程学生の卒論には、『指導教官』の名前が明記される。アメリカでは特に夏休みの間、大学院生が学部生を指導することはあるけれど、ドイツほどではないと思う。資金付きプロジェクトは、時として給料稼ぎのためで自分の博士論文とテーマが違う場合がある。その場合、TA, ディプロム・修士学生の指導、給料のためのプロジェクト、そして自分の研究テーマをこなすことになる。これは最悪のケースだけど、これだけ働くならそれ相応の給料をもらう権利は十分にある。とは言っても、やっぱり一般企業で働くよりは分が悪いそうだ。

ちょっと面白かったのは、博士論文を仕上げる段階になると、もう論文を書く作業にだけ集中してその他の雑務(TA や資金付きプロジェクト)は一切しない。そうなると収入がなくなる。そんな博士課程在籍者には失業保険が適用されるんだそうだ。まさに学生としてではなく、独立した教育者・研究者と見なされているのがわかる例だと思う。あともう一つ面白かったのは、修士課程以前と博士課程でかなり大きな差を感じたこと。それは上でも述べている通り、修士までは学生だから授業料を払い、博士からは研究者でむしろ指導する立場だからなんだと思う。

最後にドイツの大学院留学に関して。ボローニャ宣言の影響で修士課程が増えてきた。中には英語用の修士課程コースも少なからずあるそうだ。よって、留学生にとってドイツの大学院はかなり身近になってきていると思う。もちろんドイツで暮らすからには当然英語だけでは不十分で、日常生活を送るためにはドイツ語は必要になるけど、英語圏の留学を考えている人にも十分選択肢の一つに入り得ると思う。北米の修士課程と比べて良い点は、徴収が開始されたとは言え授業料が格安であること。アメリカの有名私立大学だと、年間$36,000(400万円強)も授業料が掛かる。授業料が払えなくて安い州立大学を探すよりは、思い切って授業料が安い違う国の英語プログラムへ応募するのもいいのではと思う。もちろん教育の質が下がるのは問題だけど、分野によってはドイツは十分強い。一方、博士課程となると TA が必須となる。学生はやはりドイツ人主体なので、ドイツ語を話すことが期待されるため、博士課程からいきなりドイツというのは結構大変なのではと思う。そうは言っても、学部は中国、修士はイギリスで、博士からドイツに来ていた中国人の友達がいて、彼は TA の際も英語で全部通してるそうだ。というか、ほとんどあまりドイツ語が喋れなかった。だから、英語だけでもできないことはないと思う。

もっとドイツの教育システムに知りたい方は、下記のウェブサイトをご覧下さい。

● 参考
- ドイツ留学日記 Tagebuch meines Aufenthaltes in Deutschland
- ドイツの大学

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4 Comments

こんにちは。フランスで博士課程しているマナブです。このブログは少し前から読ませていただいてます。フランスでも学費は無料でしたよ。登録料に200ユーロぐらいかかりますが。僕の場合は研究所で働かせてもらっているので、3年間はあまりお金には困りませんよ。フランスも選択肢の一つに入れていただきたいですね〜。:)

マナブさん、どうもはじめまして。以前カガクシャネットのリンクからマナブさんのブログを発見して以来、こちらこそ楽しませて頂いています。フランス留学の選択肢は自分が体験していないので控えさせてもらいます(笑)

去年の秋からパリには三度も行ってるのですが、何度行ってもいいですね。ただ物価が非常に高いと思うのですが、やはり給料には物価が反映されているんでしょうか。フランス・パリからの情報発信、今後とも楽しみにしています!

こんにちは。ここに書き込むのは結構久しぶりかも。
期末試験問題作成のところにびっくりマークがついているけど、これってアメリカでも普通にTAの仕事なのでは? 分野によって違うだろうし、大学や学科によってもまちまちだろうけど、僕がTAをしたときはだいたい試験(期末だけじゃなく中間テストも)は僕が作っていましたよ。

GW での生活は慣れてきましたか?心理学科の TA は大変なんですね。ウチの学科(そして恐らく CS とか ECE でも)で TA が試験問題を作成したってのは聞いたことがありません。当然宿題の採点はしますが、試験の採点は TA には回ってきません。担当教官がやるのが一般的だと思います。ny さんの場合、それだけやって事実上無償労働ってのはちょっとひどかったですね。

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