航空業界から学ぶ医療業界


写真提供:UMMS Photos

先週の木〜金曜の2日間、ボルチモア・ワシントン空港近くのホテルにて開かれた、ちょっと変わった学会に出席した。もともとメリーランド大学医学部の内部向けミーティングだったのを、外部にも公開して知識の共有化を図り、そして今年は、飛行士と医師との共通点を探る副題を掲げて開かれた。飛行士と医師の共通点と言われても、すぐには思いつかないかもしれないけど、ときには共に極限状態の中で任務を遂行するし、また、宇宙飛行士には医師免許を持つ人が少なからずいる(例えば向井千秋さん)。さらに、飛行士は事前訓練にシミュレーションをかなり使うそうで(例えばある任務を遂行するのに、実際の8倍分時間ものシミュレーションをしてから臨むそうだ)、そうした異分野からの知識・経験を、今後の医療発展に活かそうという試みだった。

初日は、空港の格納庫にて、飛行・手術から学んだ教訓を、飛行士・医師が体験談を共有し、その後は緊急救助用ヘリと、F-18 ホーネットを実際に見て・聞いて、かなり貴重な体験をした。晩餐会には、宇宙飛行士兼医師のデーブ・ウィリアムズ氏を招き、彼の生い立ちや宇宙での体験談を披露してくれた。二日目は、引き続き終日ワークショップで、人間工学やシミュレーションなど、直接自分の研究に結びつくものはあまりなかったけど、なかなか聞けないような面白い話を聞くことができた。

個人的に一番興味を持ったのが、シミュレーション分野でスティーブ・ドーソン医師の Simulation: The Ideal vs. Real で紹介された simulation と emulation の違いについて。これが一般的な解釈かはわからないけど、彼の説明では、シミュレーションとはそれを体験することで、実際に行う際に役立つもの。一方エミュレーションとは、実際のものとはよく似ているように見えるけど、実際に行う際にはほとんど役に立たないもの(例えば、ゲームの Guitar Hero のようなもの)。現在の航空分野では、シミュレーションが確立され、非常に有効活用されている。一方、医療分野においては、シミュレーションというよりもまだエミュレーションの段階なのでは、と疑問を投げ掛けている。これは人間の体の構造が複雑すぎて、飛行機のシミュレータのようには、医療シミュレータが簡単には作れないことに起因している。医療分野でも、訓練として十分に機能するシミュレータが出回るようになるには、まだだいぶ時間が掛かると思うけど、一エンジニアとして今後わずかでも貢献できればと思う。

ちなみに出席者の多くは医師で、あとは医療機器を扱うメーカーからの技術者と招かれた飛行士が少し、学生は自分ともう一人同じ研究室からの同僚の二人だけだった。ついでに蛇足だけど、BWI 空港近くのマリオットホテルでの食事は、アメリカで食べた料理の中でもかなりのトップランクに入るくらい、とても美味しかった。


● 参考
- UMM: Innovations in the Surgical Environment Conference Brings Surgeons and Aviators Together
- UMSOM: Conference Studies Innovations in the Surgical Environment
- Baltimore Sun: Surgeons, pilots trade safety ideas

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