先日の条件付き合格の際は、励ましのメッセージどうもありがとうございました。5月末までに3つの再試験を受けるようにと言われていたけど、試験勉強と研究と両方中途半端に進めるより、先に試験に集中して終わらせ、思う存分研究に専念したかったので、4月中旬から毎週1人ずつ教授と会い、おかげさまで3つともパスできました。ようやく晴れて正式な合格がもらえました。これをアメリカでは ABD (All But Dissertation, つまり残すは博士論文のみ)と呼ぶようです。果たしてどれくらいの需要があるかわからないけど、試験問題の内容に関してはまた後日改めて。
■ 2008年5月 2日 (金)
おかげさまで ABD
■ 2008年4月 9日 (水)
情報は「アウトプット」してこそ得られる
口頭試験の条件付き合格をもらった後、何がダメだったのか・何が足りていなかったのかを考えた。個々の知識が足りていなかったのはもちろんのこと、それ以上に、全体像を把握して点と点を線で結ぶ(元々の意味合いは違うけど、スティーブ・ジョブズの話にも繋がると思う)ことができてなかったのだと思う。ある事柄に関してストレートに訊かれたらわかるけど、遠回しに婉曲に訊かれたら、そこから自分の持っている知識まで結びつけないといけない。そのことを高校の友達に話したら、「社会人だとそんなのは当たり前だよ〜」と一蹴されてしまった。・・学生でもごもっともです。というか、それが Ph.D. には最低限求められることなんだと思う。
もう一つ足りていなかったのは、「アウトプット」する演習の機会。前回の DQE のときには周りに受験者がいたので、みんなで集まって一緒に勉強をする機会が多かったけど、今回の GBO は時期がバラバラなため、かなりの時間を一人で机に向かっていた気がする。筆記試験と違って、口頭試験は相手との受け答え次第でどのようにでも変化していくので、もっと友人に頼って、口頭演習を多く入れるべきだったと思う。
後者に関して、経験則では非常に当たり前のように思われる。例えば外国語を勉強するとき、文章を読んだり訊いたりするだけでは不十分で、実際に書いたり話したりしないと身に付かない。自分の研究を紹介するとき、毎日ずっと取り組んでいるからといって、誰にでも単純明快に説明できるとは限らない。jkondoの日記:言語化にも書かれているように、実際に自分の口から「アウトプット」していかないと、なかなか自分の頭の中には定着しない。
このことを、パーデュー大学の教授が実験で示した。それを日本語でわかりやすく解説したのがNBonline:脳は「入力」より「出力」で覚えるに書かれている(Science にアクセスできるならば、原文の "The Critical Importance of Retrieval for Learning" はたった3ページで読みやすい)。結果を簡単にまとめると、教科書から覚えるよりもテストで実践してこそ覚えられる、つまり、「インプット」ではなく「アウトプット」することで知識が定着する、ことを示している。これは自分の GRE の勉強法に当てはまっていて、個別に単語を覚える努力が優先しすぎて、演習問題を通して覚える努力が疎かになっていた。努力すればいいってわけではなく、努力の方向性が大事。
もちろんこれには当たり前のことがあって、アウトプットだけでは意味がない。アウトプットしたあとのフィードバックをしっかり活かすことが重要なはず。ここまで読み返してみると、当たり前のことをそのまま書いているだけな気がするけど、当たり前のことを当たり前のようにすることが難しい。それが無意識的に継続してできるならば、ある程度のことは何でもできるようになるんだと思う。
■ 2008年4月 5日 (土)
カガクシャネットのメルマガ第二弾スタート!
カガクシャネットがお届けしている、『海外の大学院留学生たちが送る!サイエンス・実況中継』というメールマガジンの第二弾が、本日からスタートしました。
これまでの第一弾では、
○ 最先端の研究紹介
○ なぜアメリカの大学院を選んだのか
に関して、幅広い分野から編成された執筆陣がお送りしてきました(過去ログはカガクシャネット上にて閲覧できます)。
本日からの第二弾では、
● Ph.D.取得後のキャリアを成功させるには ~様々なケースから学ぶこと~
● 留学本では教えてくれない海外大学院のホント ~実際の体験から~
に関して、新たなメンバーを加えてみなさんにお届けします。
今回より、私が新しく編集長を務めさせて頂くことになりました。読者のみなさんから多くのフィードバックを得て、より良いメルマガを一緒に作り上げていきたいと思います。メルマガ・カガクシャネットの登録は無料ですので、みなさんのご参加を心よりお待ちしております!
■ 2008年3月29日 (土)
春の息吹
今日は天気が良かったので少し散歩して春の息吹を撮ってみた。やっぱり春が来るとなんだか嬉しい。
● 2年前に撮った春のホプキンス・ホームウッドキャンパス ← 3〜5ページ目
■ 2008年3月24日 (月)
HDR
以前から名前は知ってたし作品を見たこともあったけど、今週末にふと試してはまってしまったこと、HDRI (High Dynamic Range Imaging) 作成。簡単に言うと、フィルムカメラやデジタルカメラだと記録できる情報が限られている(=ダイナミックレンジが狭い)そうだ。それを克服するために、カメラが受け取る光の量を調整して、同じ風景を異なる露出で撮影してそれを合成。すると、通常の1枚の画像からでは表現できない情報が再現できる。能書きよりも、きっとその合成写真を見てもらった方が早いと思う。
● ボルチモアの夜景

● アナポリスで見た黄色い消防車

● シカゴにあるミレニアムパークのクラウド・ゲイト

HDR で面白いのは、複数枚の写真を合成したあとに自分好みに調整できること。これによって、より現実っぽく見せることもできるし、ポップ調にして写真じゃなく見せることもできる。露出を調整するため一眼レフが適しているけど、Photomatix というソフトウェア($99 → 学割で40%OFF!)を使うと、1枚の画像からでも簡単に作成できる。でも厳密に言うと、実際には同じ風景を異なった露出で複数枚撮影してそれを合成するべきなので、上でやっているような1枚から作成するのは HDRI 風のものと呼ぶべきなのかな。追試験が終わったら深みにはまりそう。。
興味がある方は下記の解説や作品一覧をご覧下さい。
- Wikipedia: HDRI (日本語・英語)← 英語の方が詳しいです
- 10枚の「ゴッサム・シティ東京」
- Vanilla Days: HDR Tutorial
- Single Image HDR Tutorial for Photomatix
- Flickr: The HDR Pool
■ 2008年3月22日 (土)
CSEB 落成記念パーティー
2週間前の話になるけど、以前少しと触れた Computational Science and Engineering Building (CSEB) の落成記念パーティーが開かれた。元々は去年の夏にすべて工事が終了予定だった。だから、昨年8月末にミュンヘンから戻ってきたら、既にみんなは新しいオフィスに引っ越している予定だった。ところがアメリカの工事だから(?)か計画通りには進まず、とりあえず教授や一部の学生は昨年夏に引っ越し。そして大学院生用のオフィススペースは昨年冬までに完成させて、多くの大学院生は昨年12月に移動。最後に残ったいくつかの小部屋や、今回の建物のメインの一つでもある展示用手術室がついこの前完成し、落成式にはすべてが間に合ったといったところ。この展示用手術室、正式名称は寄付金出資者の名前を冠して、The Richard A. Swirnow Computer Integrated and Interventional Systems Mock Operating Room という名前だけど、Mock OR と呼ばれている。最初友人の会話で聞いたとき、みんな口々に「マーコーアール」と言っていて何のことだかさっぱりわからなかった。この展示手術室では、これまでにホプキンスの研究グループで開発された手術用器具や、実際に医師が使う器具を展示し、見学者が実際に試すことができる。噂によれば、この展示用手術室のために遠隔操作用手術ロボット da Vinci をもう一台買うとか。そのお値段、150万ドル(約1.5億円)也。。
今回の式典の出席者は、ホプキンスの他学部の教授や CSEB への出資者だったため、かなり平均年齢が高かった。自分はいま取り組んでいる研究紹介とロボットのデモ要員として参加。ちなみに参加した学生や教授たちには、前日夜にトップシークレットの文書が手渡されていて、そこには大口出資者の経歴が細かく書かれていた。つまり、その VIP たちとの会話を弾ませるための下準備をしろ、ということだった。昨年秋にも同じような催しが開かれていて、その時はこの CSEB だけではなく、新たに完成したビジターセンターをも含めた大規模な落成式典だった。その日 CSEB の案内役で出席した友人の話によれば、学長自ら約300名の参加者を一人一人と握手して出迎えたそうだ。また、自分の指導教官は、晩餐会で同席する出資者の経歴一覧を持っていて、これまた事前にある程度暗記してから式典に参加したそうだ。
■ 2008年3月10日 (月)
条件付き合格
今となっては正確な日付は思い出せない。でも、恐らく10年前のちょうど今日、浪人生活が決定して自然と涙が溢れてきた感覚は今でも覚えている。小3のときに算盤を習い始めたのがきっかけで、小中高とずっと算数・数学が得意だった。ところが、センター試験の数学2・Bで予期もしない大失敗。後期試験の足切りに届くか届かないかのぎりぎりラインだったけど、東工大への憧れもあって出願した。結果、前期試験の数日後、後期試験足切りの通知が届いた。そして前期試験の合格発表日、桜は咲かなかった。ようやく桜が咲いたのは、長く苦しい浪人生活を体験したその1年後だった。
あれから10年、今回は Ph.D. への第二の関門試験、通称 GBO (Graduate Board Oral Exam) を受けた。これはジョンズ・ホプキンスで博士号を取得するためには恐らくどの学科でも課されている。形式は学科によってまちまちだけど、自分の所属する機械工学科では、第一の関門試験 DQE (Department Qualifying Exam) の約1年後に受ける口頭試問となっている。DQE は入学から1年半後、主にそれまで履修した授業からの内容を問う試験。GBO は自分の研究中心の口頭試問であっても良いけれど、機械工学科では授業中心の口頭試問を課している。
これまた学科によって異なるけど、機械工学科では学部内から2名の教授、学部外から3名の教授、計5名の教授で審査委員会を形成することになっている。比較的学科内のクラス中心に受けていたこともあって、学部外教授の選考が厳しかった。さらに拍車を掛けたのは、2クラス取った教授が定年退職したことと、もう一人別の学科外の教授が、昨年秋から1年間のサバティカル(通称研究休暇と呼ばれ、アメリカの大学だと6〜7年ごとに約1年間の自由な時間が与えられる)に入ったこと。現在はサバティカルを利用してスタンフォード大で自身の研究に打ち込んでいるため、これが試験日程の調整に大きな影響を及ぼした。
その結果、GBO を受けようと考えたのがちょうど1年前。その後、急遽ミュンヘン行きの話が舞い込み、夏以降に延期するも、秋セメスターは5教授の日程が合わず、10月・12月と計画するも断念。3/7に再びサバティカル中の教授が帰って来られるかもとの話を聞き、その日で日程をスケジュールするも、最後の最後にその教授の日程が折り合わず、帰ってこられないことになった。仕方がなく代理の教授を立てるも、他の教授が億単位で研究資金が動く重要な会議に出席せざるを得なく、再び日程調整。その前後でなんとか都合をつけてもらい、ようやく今日受けることができた。5人の教授が2時間の都合を合わせるのに、これほどまでに大変だとは思いもしなかった。
そして結果は条件付き合格。5月末までに3人の教授から再び追試験を受ける必要があり、そのうち最低2人から合格をもらわないと、再び最初から GBO を受けることになるとのこと。ただ、追試験は3人同時ではなく、それぞれの審査員の先生から個別に受けることになるため、今回よりはもっとカジュアルな雰囲気なんだろうけど。でも正直なところ、首の皮一枚でつながっていると言った方が正確かもしれない。自分自身、試験の出来には満足してないので、まぁ残りの2ヶ月ちょっとでなんとか巻き返せればと思っている。自分は出来る学生だとは思ってないけど、ただ今回の試験の印象が審査員の中で残ってしまうのも全く嬉しくない。なんとか追試験でそのイメージを払拭できる成果を見せられればと思う。10年前と違うのは、1年間待たなくていいこと。そう遠くない将来に再びチャンスが巡ってくるのは有り難いと思う。
■ 2008年3月 6日 (木)
Modular Snake Robot
蛇型ロボットと言ったら東工大の広瀬先生があまりにも有名(例えばこの水陸両用蛇型ロボットとかすごい)だけど、カーネギーメロン大の Howie Choset 教授が一台で前進はもちろんのこと、回転前進、木登り、遊泳などなど、なんでもできる蛇型ロボットを作っている。2004年9月に学科セミナーでホプキンスへ招かれたことがあって、非常にユーモアに富んだ面白い講演をしたのが印象に残っている。
詳しくは公式ウェブサイトをどうぞ。
■ 2008年3月 3日 (月)
口頭試問まであと1週間
Graduate Oral Board Exam (GBO) と呼ばれる、PhD を取るためにはパスする必要がある試験がようやく3/10(月)に決定。詳しくは終わってから書くけど、試験を受けようかと思ってから実に1年近く掛かって最終スケジュールが決定。色々な要因があったのは確かだけど、5人の教授(予備も含めると7名)が2時間のスケジュールを合わせるのがこれほどまでに大変だとは思わなかった。。。あと1週間ほど、9年前(!)の大学受験生に戻ったつもりで頑張ります。
■ 2008年2月23日 (土)
ルークアーム:最先端のロボット義腕
既に出遅れてしまって、この件に関して書かれてる記事が多いけど。。まずは能書きよりも、こちらの映像からご覧下さい。
これは以前にも少し触れた、DARPA(アメリカ国防総省の防衛高等研究計画局)が出資するロボット義腕開発プロジェクトの研究成果の一つ。下で紹介している記事によれば、大きなチームが2つあって、ケーメン氏の DEKA という会社が2年間のプロジェクト、ジョンズ・ホプキンスの応用物理研究所 (APL: Applied Physics Laboratory) は4年間のプロジェクトとして発足したそうだ。お互いに別々のアプローチを取っており、DEKA が2年間のプロジェクトを終えて発表したのが、今回掲載されている通称『ルークアーム』。おおまかな解説に関しては、こちらを参考にして下さい。
- Engadget Japanese:セグウェイの発明家が開発するロボット義手「ルークアーム」
- Robot.Mとの優雅な平日:ロボットニュース【セグウェイの発明家が開発するロボット義手「ルークアーム」】
より詳しく知りたい方は、ieee spectrum の記事 "Dean Kamen's "Luke Arm" Prosthesis Readies for Clinical Trials" を読んでみて下さい。
ケーメン氏のグループは、以前触れたような頭にチップを埋め込む方法ではなく、胸筋からの筋電位を測定している。頭にチップを埋め込むよりは安全そうに見えるけど、それでも今回の手法もやっぱり手術が必要。人間の神経網は上部脊髄から肩を通り越えて、脇の下、そして腕へと繋がっているそうだ。今回の被験者は脇の下の神経が胸筋と繋がるように手術したとのこと。だから、脳からの信号を直接読み取る代わりに、胸筋からの微量な電位を測定して、腕がどんな動きをしたいのかの命令をロボット義腕に送っている。ちなみにこの執刀医が所属する Rehabilitation Institute of Chicago はおそらく全米一の規模のリハビリセンターで、リハビリ関連のロボット研究が、シカゴにあるノースウェスタン大学などで盛んに行われている。
動画から、脳からの信号を出力する方はかなりよくできているのがわかる。では、脳に戻ってくる信号の方はどうだろうか。ロボットハンドで難しいのは、固いものでも柔らかいものでも両方掴めること。そのためには掴んでいるモノからの力のフィードバック、つまり、いま自分がどれくらいの力で物体を握っているのかを知る必要がある。これが脳に戻ってくる信号という意味。これが十分でないと、最初にコップを掴んで、次にブドウの一粒を掴む、といったような動作は難しい。動画でも説明されているけど、この研究チームがとった手法は、直接力のフィードバックをするわけではなく、代替え手段によるフィードバック。小さな振動センサを腹部に取り付け、出力している力の大きさによって振動の周期を変えている。だから、実際に重い・軽い、固い・柔らかいといった情報までは正確にはフィードバックされていない。でも本物の感覚フィードバックの代わりに、違った形でのフィードバックを使うというのはよくあることで、例えば自分の研究グループだと、実際に遠隔操作手術ロボットに力のフィードバックを実装する代わりに、力情報をディスプレイに表示して視覚情報として伝達する方法が試されている(力フィードバックを実装するとロボットの安定性が問題になるけど、視覚情報を追加するのはシステムの安定性には影響ない)。
手触り感の実装や空間認知能力(例えば両手を背中の裏に回しても、どこに自分の手があるかが大雑把にわかるため、手を繋ぐことができる)のフィードバックなど、ハプティクスと脳神経科学間での問題が山積してるように見える。でも正直なところ、たったの2年間でこんな高性能なロボット義腕ができるとは思わなかったので、APL を中心としたグループがあと2年後までにどんな結果を出すのか楽しみだ。


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